MPinK「薔恋多院家の三姉妹」感想

MPinKは初観劇。「初の完全オリジナルミュージカル」ということもあってなのか、開演前に演出家から前説あり。個人的には雰囲気が知れたのでありがたい。ただ、予防線的にストーリーの面白さに対するハードルを下げておかなくても支障はないのでは、という印象。

前説を踏まえて、どんな話が展開されるのかとやや身構えてしまったところもあるんだけど、ストーリーもかなり楽しめた。突拍子もない設定は多々あるものの、感情の動きが理解しやすい展開が要所要所にあって、大局的にはそこまで無理のないシナリオだった。

思うに、今作においてストーリーの面白さは第一ではない。最も重要なのはパフォーマンスで、次に来るのがそれを支える音楽や衣装。ストーリーや美術が大劇場並みの完全無欠なものでなくとも、作品全体の満足感が著しく下がってしまうことはない。つまり、とにかくパフォーマンスが素晴らしい。

ミュージカルにはあまり詳しくないのだけど、それこそ大劇場の有名タイトルに子役で出演するような、若いけれど実力と経験のあるキャストも多く参加していると聞いた。会場の立地からは思いもよらないようなパワフルな歌とダンスがすぐそこで展開され、観ていてシンプルに楽しめた。

音楽では、三姉妹の各陣営が三つ巴で主張をぶつけ合うシーンの曲が特にドラマチック。また、「地球ごめんなさい」のメロディーは耳に残る。歌詞の中で、長女エマが両親に代わって妹たちを守っていかないとと決意したときの気持ちを「不安と誇り」と表現していたのが非常に共感性が高く、印象に残った。

衣装では、特にエマの赤いワンピース+エプロンドレスが素晴らしい。メイド服の特徴を残しつつ、華美な装飾をせずにすとんと上品に落ちるシルエットが美しかった。

 

登場人物では永利優妃さん演じる次女ルルがイチ推し。お嬢様らしい長女・三女と比べてリアリストで気が強く、親しみを感じさせる。シビアな面もあるが、秘書のA男に対してしっかりツッコミもこなすところはキュート。英詞を歌い上げれば色気とパワーがあってかっこよく、舞台上にいるととにかく目が離せない。ジャケットのオンオフとボトムス(パンツ・スカート)にバリエーションがあり、どの組み合わせも着こなしていて素敵。

今回初見のキャストで特に気になったのはB子役の遊佐夏巴さん。年齢不詳のセクシーさと秘書としての貫禄あるお芝居が魅力的(A男と同年代かと思いきや、とても若い方でびっくりした。衣装とメイクもばっちりはまっていると思う)。笑いのシーンをコミカルに盛り上げつつ、長女エマとのデュオでそれぞれの強さと孤独を表現するところは見応え・聞き応えがあった。

MPinkは、観客がミュージカルに触れる機会を作るというだけでなく、子役から大人の俳優への過渡期にあるキャストたちがミュージカルに携わり続ける場を作ることも目的の一つとしていると聞いた。素晴らしい取り組みに今後も注目したい。